- 2021.12.15
- コラム
【安田陽先生へ取材】日本の再生可能エネルギーの今と未来を考える
第3回 持続可能な社会構築をめざすためのシンポジウム(2021.11.12開催)にてご講演いただきました、京都大学大学院 特任教授 安田 陽先生(経済学研究科 再生可能エネルギー経済学講座)にシンポジウム後、改めて『日本の再生可能エネルギー』について取材いたしました。ご講演内容のポイントや、伝えきれなかった情報をわかりやすく説明していただきました。シンポジウムで語りきれなかった内容も盛り込まれた特別インタビューになっております。
■日本と世界の再生可能エネルギーの事情について ―
ロングライフ・ラボ(以下LLL):改めて、なぜ世界と比較したときに日本は再生可能エネルギーが進んでいないのでしょうか。
安田先生:一言で言うならば、日本は科学的な意思決定ができていないことが問題だと考えます。世界では既に科学的に地球温暖化や気候変動によるリスクが相当に確からしいことが立証されているのに、日本はそのリスクを過小評価しています。世界では、EBPM(エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング:証拠に基づく政策立案)の考え方が主流になりつつあり、リスクを踏まえた経済学的な考えが、再生可能エネルギーを推し進める要因になっています。日本では現状、化石燃料による弊害やリスクが軽視されており、とてもEBPMに則った政策がされているとは言えません。また、日本は科学的な技術力は豊富ですが、社会科学が軽視されやすく、せっかくの技術を活かす社会システムを整備する力が乏しいのも、再生可能エネルギーがなかなか広まっていかない要因の一つにあります。
また、日本では再生可能エネルギーへの投資に対して「国民負担」というワードをよく見かけますが、その考え自体を直さなければいけません。再生可能エネルギーへの投資は、「これからの未来への投資」と考えた方がよいでしょう。
さらに他の発電方式と比較したときに再生可能エネルギーが高いと言われていますが、実は従来の発電方式のコストには、発電によって発生する環境などへの負の影響が含まれていません。この影響は『隠れたコスト』、または『外部コスト』と言い、化石燃料を使った発電の外部コストが最も高くなっていることがわかっています。また、コストを考える際は、便益(ベネフィット)を見ることも忘れてはいけません。表面上のコストだけを見ずに、外部コストや将来へのリスクを考慮して、再生可能エネルギーが未来にもたらす便益に注目するべきです。表面上のコストだけに拘ることは、未来へツケを回すのと同じことなのです。
(出典)安田陽監修:「再生可能エネルギーをもっと知ろう」シリーズ第2巻『自然の力を活かす』(2021)p.15Ⓒ岩崎書店
LLL:では、現実的に将来日本で再生可能エネルギー100%は達成できると、安田先生はお考えですか?また環境にやさしいと言われている再生可能エネルギーですが、環境負荷はあるのでしょうか。
安田先生:技術的には可能だと思います。ただ、あるべき姿として100%を目指すのはいいですが、経済的な実現可能性としては、実際は90~95%くらいが妥当かもしれません。「再エネ100%はコストが高くつく」という主張も見られますが、その反動で極端に低いものを目指すのではなく、2050年には再エネが9割くらいになるという世界中の「相場感」ではないでしょうか。
なお、再エネの環境負荷もゼロではありませんが、その負荷は化石燃料に比べると1/100ほどだと試算されています。ただし日本は海外に比べると、太陽光による森林伐採や土壌流出などにより、再生可能エネルギーの環境負荷が高くなってしまっている可能性もあります。「再エネだから何でもよい」というのではなく今後は再エネ同士で更に淘汰していき、より良い再エネが市場に広まっていくことが重要ですね。
(出典)安田陽監修:「再生可能エネルギーをもっと知ろう」シリーズ第2巻『自然の力を活かす』(2021)p.4~5Ⓒ岩崎書店
■私たち生活者ができることとは ―
LLL:再生可能エネルギーを進めていくために我々生活者ができることはあるのでしょうか。
安田先生:今から自分事、あるいは自分の子どもたちの事として考えることが重要です。しかし、実際に自分事になった時にはもう取り返しのつかない状況なので、他人事を自分事として想像する感受性が必要でしょう。また、様々な情報に対して自分から知ろうとすることも大切ですね。本来なら、必要な情報がきちんと我々に知らされる社会ではないことが問題なのですが、この状況を変えていくためにはまず個人から行動して社会を変えていかなければいけません。
LLL:自ら情報を取得するコツはありますか?
安田先生:その情報に科学的な根拠がきちんとあるかどうか、という点を気にしてほしいです。つい自分の耳心地が良い情報ばかりに偏ってしまったり、根拠がないのに威勢の良い記事に目を奪われがちです。科学は日々進歩するものなので「絶対」はないですが、根拠のある方法論によって「ある程度」未来予想ができるのが科学であり、その「ある程度」の度合いを確率論的に考えて我々は行動していくのが望ましいです。リスクマネジメントの分野でも、多くの場合リスクは確率論で予測します。例えば日本では天気予報は確率で示されているので、日本人は確率論は日常に浸透して本来慣れているはずなのですけどね。
LLL:最後に生活者の皆さまへ一言お願いいたします。
安田先生:気候変動によるリスクは遠い未来の問題でなく、我々の目の前まで迫っています。コロナウィルスと同じですが、迫りくるリスクに対しては「今まで通り」ではいけないということを認識してください。現状の日本は「今まで通り」でいることには何も理由はいらないが、変えていくためには百の理由が必要という風潮があるようです。そこも皆で変えていかないといけませんね。
<最後に>
基調講演に続き、私たちの意識を変えるお話をしてくださった安田先生。最後の「今まで通り」ではいけない、という言葉が特に心に刺さりました。
是非、再生可能エネルギーを日本がこれから推し進めていくためにも、個人の意識変化が重要になります。変化を恐れずに、今まで通りではいけないと一人ひとりが「未来のために、持続可能な社会づくりのために必要なこと」と認識することで、行動することができると思っています。
【プロフィール】_______________________________
京都大学大学院 経済学研究科 再生可能エネルギー経済学講座 特任教授 安田 陽氏
1989年3月、横浜国立大学工学部卒業。1994年3月、同大学大学院博士課程後期課程修了。博士(工学)。同年4月、関西大学工学部(現システム理工学部)助手、専任講師、准教授を経て2016年9月より現職。専門分野は風力発電の耐雷設計および系統連系問題。現在、日本風力エネルギー学会理事、IEC/TC88/MT24(国際電気標準会議 風力発電システム第24作業部会(風車耐雷))議長など、各種国際委員会専門委員。主な著作として「世界の再生可能エネルギーと電力システム」シリーズ(インプレスR&D)、翻訳書(共訳)として「風力発電導入のための電力系統工学」(オーム社)など
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